この会社は、アルミを使った治具設計と製作を一貫して行う技術系の町工場。小規模ながらもCAD設計と機械加工、簡易溶接まで社内で完結できる体制があり、「現場でそのまま使える治具」に高い評価を受けてきました。

しかし、ここ数年で状況が一変。長年取引のあった大手自動車部品メーカーの仕事が減少し、売上の大半が1社依存に。
社長は「そろそろ新しい取引先を増やさないと」と焦っていましたが、肝心の新規問い合わせは、年間でたった3件。うち、まともな商談に進んだのは1件だけでした。

「うちの仕事は説明が難しい」「見ればわかるんだけど、言葉で伝えづらい」
そう口にする社長は、WEBやチラシなどの情報発信に苦手意識があり、ホームページも更新されず放置状態。

現場には誇れる技術があるのに、それを伝える手段がなく、“選ばれない状態”が続いていたのです。

① 強みを「現場での課題解決ストーリー」として再定義

まず行ったのは、「製品」ではなく「解決する現場の困りごと」に焦点を当てることでした。

ミーティングの中で見えてきたのは、次のような強み:

  • アルミの熱膨張を計算に入れた、溶接時のズレを最小限に抑える設計技術
  • 治具の製作だけでなく、現場の作業効率まで改善できるように工夫されている点
  • 過去に改善前後で作業時間を40%削減した実績

これらを踏まえ、**「現場で溶接精度が安定しない悩みを、簡易治具で解決する設計製作サービス」**という言語に置き換えました。

情報発信が苦手な社長に代わり、技術の価値を“伝えるツール”を用意しました。

  • 動画①:「なぜアルミ溶接はズレやすいのか?」(3分間の解説)
  • 動画②:「現場で使われている治具の改善前後比較(静止画+ナレーション)」

さらに、営業用資料として:

  • 提案書:「3つの改善事例とその効果(作業時間・不良率などを表形式で)」
  • 導入前チェックシート:「御社に必要な治具を5分で診断できる」形式

動画はスマホ撮影+Canvaの編集で作成し、YouTube限定公開+イプロスから誘導する形にしました。

③ イプロスでの設計提案+相談導線の構築

  • 製品名ではなく、「作業効率が40%アップしたアルミ治具設計」として掲載
  • 使用キーワード:「アルミ治具」「溶接ズレ対策」「作業効率UP」「小ロット対応」

さらに、DL資料請求者に対しては、3段階のフォローアップ:

  1. お礼メール+施工事例資料の送付
  2. 2日後:「現場で起きやすい溶接ミスとその対策」動画リンク
  3. 5日後:「治具設計オンライン相談」の無料予約リンク(Googleフォーム)

● 資料請求数の推移

  • イプロス公開後:
     → 初月:DL 11件/次月:DL 19件/3ヶ月累計:52件
     → 過去年間3件 → 3ヶ月で52件=約17倍増加

● 商談・試作案件の発生

  • 初回DL者からの問合せ率:約27%(14件)
  • うち10件がオンライン相談 → 7件が試作依頼へ進行(3ヶ月間)
  • 試作単価平均:約13万円(量産前提)
  • 大手設備メーカー1社と継続契約決定(月1台ベースのリピート)

● 売上・粗利の変化(対前年同期比)

  • 売上:前年同期間の720万円 → 1,250万円(+73%)
  • 新規売上比率:32%(前年:5%)
  • 価格競争案件の減少 → 平均粗利率が6%向上(社内調査)

上記の結果を要約すると、

1. 問い合わせ数の急増

施策実施から3ヶ月で、イプロス経由の資料請求件数は累計52件に達しました。これは、改善前(年間3件)と比べて約17倍の増加に相当します。
キーワード設計と導線の最適化により、狙った業種・技術者層からのアクセスが集中し、掲載ページの閲覧数と反応率が大きく向上しました。


2. 実案件への転換と試作受注

資料請求者のうち**27%(14件)**が問い合わせに発展。さらにその中の10件がオンライン相談へ進み、試作受注に至ったのは7件となりました。
試作1件あたりの単価は平均13万円前後で、すべて新規企業からの発注です。中には量産前提の技術検討案件も含まれています。


3. 継続取引への発展

試作案件のうち1件が、**大手設備メーカーとの定期取引(月1台納品)**に発展しました。これは、それまで1社依存だった営業体制に対して新たな柱ができたことを意味し、経営上の安定性が向上しています。


4. 売上と構成比の変化

改善前の3ヶ月間売上は720万円でしたが、改善後は1,250万円に増加(+73%)。そのうちの**新規売上比率は32%**を占めており、マーケティング施策による売上貢献が明確に数字で表れています。


5. 利益率の改善

案件の質が向上し、価格競争による受注が減ったことにより、平均粗利率が約6%改善しました。
これは、適正価格で受注できる機会が増えたこと、現場負荷に見合った工数管理ができるようになったことによるものです。


このように、ただ問い合わせを増やすだけでなく、「見込みの高い顧客を選び、継続的に取引できる体制」に進化したことが最大の成果と言えます。

― 技術ではなく「現場の悩み」を出発点にすると、伝わる ―

この会社の施策から得られる教訓は、「製品そのもの」ではなく「現場の悩み」に焦点を当てたことです。

以下のようなステップで進めたのが、成果のカギでした。


【STEP1】「使う人が困っていること」からスタートする

自社がどんな製品を作っているかよりも、「その製品が、どんな困りごとをどう変えるのか?」に注目しました。
今回は「溶接でズレる」「作業がやりづらい」「手間がかかる」といった悩みを起点に、治具の価値を定義し直しました。


【STEP2】実際の改善事例を「数値と画像」で見せる

作業時間がどのくらい減ったのか?ミスが何%減ったのか?
導入前と後の写真を並べ、表形式で成果をまとめたことで、相手の理解と信頼を獲得しました。


【STEP3】“技術の解説”ではなく“課題の解決方法”として動画で伝える

スマホで撮った3分の動画が、技術者だけでなく購買担当者にも刺さりました。
「難しい技術を、簡単な説明と図で伝える」ことが、意外な反応を生んだのです。


【STEP4】問合せしやすい“相談導線”を用意する

「詳しい話を聞きたい」と思った人が、すぐに行動できるように、資料ダウンロード→動画視聴→オンライン相談という流れを設計。
これにより、見込み顧客の“脱落”を減らすことができました。

営業が苦手でも、動画編集ができなくても問題ありません。
大切なのは、「誰に」「何が」「どう役立つか?」を明確にし、それを相手に分かる形で届けること。

このように、“困っている誰かのために情報を出す”という視点を持てば、小さな町工場でも「選ばれる立場」になることができます。